今日も今日とて

今日も今日とて朗らかな1日であった。

寒さこそ続いているものの、昨日とは打って変わってなかなか悪くない天気であった。雪も雨も雹も雷も氷柱も剣も槍も降らなかった。強いていえば蛙とチョコレートが降ったぐらいであった。少し靴が甘い匂いと茶色を纏ったぐらいだ。

早朝、車も人も通っていない道路を小生は自転車を漕いでいた。今日がいい天気ということで機嫌が良かった小生は意気揚々としていたのだ。

そんな時、小生の視線の先にまだ溶け残っている雪に覆われた道路があった。小生も男の端くれ、通らないわけにはいかなかった。

雪の上は予想以上に走りづらかった。タイヤが踏んだ瞬間潰れて段差となる雪。ガタガタである。

そんな中を通ってしばらくすると「あっ転ぶ」と思う瞬間があった。予感というか、それはもう余地の域であった。どうしようにも転落は避けられないことが小生には判った。

だが小生、意外と意地っ張りであるからして、なんとしても転ぶことは避けたい。そう思った瞬間、小生の体が動いた。小生は自転車から流れるように降りた。背後に残った自転車の倒れる音。それは一つの技だった。

転落回避大会があったらそこそこの順位は行けたはずである。それほどまでに美しい転落の回避だった。スピードスケートの選手の一瞬を切り出したようなポーズで斬新をとったその時の小生は、自らのあまりの才能に慄いた。果たして自転車が発明され今日に至るまで、ここまで綺麗に自転車を降りた人間がいただろうか。いや、いまい。

何はともあれ、怪我がなくて良かったことは確かである。